もんじゅが廃炉に至った理由は、1995年の事故だけではありません。長期間にわたる運転停止、2010年の設備トラブル、保守管理上の問題、運営主体をめぐる議論が積み重なり、最終的に政府が運転再開を断念しました。
もんじゅの主要な出来事と関係機関
出典:JAEAの経緯資料、資源エネルギー庁、原子力委員会の公表資料を基に整理。
1995年のナトリウム漏えい事故は何が起きたのか
1995年12月8日、もんじゅは電気出力約40%の試験中に、2次主冷却系の配管からナトリウムが漏れる事故を起こしました。
原因は、ナトリウム温度計の保護管である「さや管」の設計上の問題でした。配管内を流れるナトリウムによって温度計のさや管が振動し、疲労によって破損。そこから液体ナトリウムが配管室内へ漏れ出しました。
漏れたナトリウムは空気と反応して燃焼し、配管室内に白煙が広がりました。事故調査では、漏えい量は約0.7トンと推定されています。
ここで誤解しやすいのが、放射性物質の漏えい事故だったのかという点です。
事故が発生したのは、原子炉内を直接通らない2次冷却系でした。JAEAの原子力百科事典ATOMICAによると、この事故による原子炉の安全性や周辺環境への放射性物質による影響はありませんでした。国際原子力事象評価尺度(INES)ではレベル1に分類されています。
つまり、重大なナトリウム漏えい・燃焼事故ではあったものの、原子炉の炉心が損傷した事故や、周辺住民に放射性物質が拡散した事故ではありません。
2010年の運転再開と再び発生したトラブル
事故後、もんじゅはナトリウム漏えい対策の改造工事や安全性の総点検などを実施しました。そして2010年5月6日、約14年半ぶりに性能試験を再開します。
しかし、再開からわずか3か月後の8月26日、燃料交換作業中に炉内中継装置が落下するトラブルが発生しました。
この装置は、燃料交換の際に燃料体などを移送するために使う重要な設備です。復旧作業は2012年8月まで続き、運転再開に向けた計画は再び停滞しました。
さらに2012年には、機器の点検漏れが多数確認され、原子力規制委員会による保安上の措置要求や監督が強化されます。2013年には、運転再開準備の停止を含む保安措置命令が発出されました。
2015年11月、原子力規制委員会は文部科学大臣に対し、原子力機構に代わって安全に運転できる能力を持つ主体を具体的に特定することなどを求める勧告を出しました。
その後、運営主体や今後の高速炉開発のあり方を検討する会議が設けられましたが、運転再開の道筋はつきませんでした。
2016年12月、政府が廃止を決定
2016年12月21日、原子力関係閣僚会議は、もんじゅを原子炉として再稼働させず、廃止措置に移行する政府方針を決定しました。
その背景には、事故後の長期停止だけでなく、保守管理の不備、運営体制の問題、安全対策に必要な費用や人材の確保など、複数の課題がありました。
2017年6月には政府が廃止措置の基本方針を策定。同年12月にJAEAが原子力規制委員会へ廃止措置計画の認可を申請し、2018年3月28日に認可されました。
2018年度から約30年間をかける廃止措置が正式にスタートしたのです。
【高速増殖炉の仕組み】もんじゅは何を目指した原子炉だったのか
もんじゅの廃止措置を理解するには、そもそも高速増殖炉がどのような技術なのかを知っておく必要があります。
高速増殖炉は、発電に使う燃料を消費するだけでなく、核反応を利用して新たな核燃料を生み出すことを目指す原子炉です。もんじゅは、その技術を実際の発電設備で検証するための原型炉として開発されました。
高速増殖炉の「増殖」とは?
通常の原子炉では、燃料中の核分裂性物質を消費しながら熱を発生させます。
高速増殖炉では、プルトニウム239などの核分裂によって発生した高速中性子の一部をウラン238に吸収させ、核反応を通じて新たなプルトニウム239を生成します。
このように、消費する核分裂性物質に対して新しい核燃料を生み出すことを「増殖」と呼びます。
日本が高速増殖炉の開発を進めた理由の一つは、ウラン資源の利用効率を高め、核燃料サイクルを長期的に成立させることにありました。
MOX燃料とナトリウム冷却の役割
もんじゅが使用した燃料は、プルトニウム・ウラン混合酸化物燃料(MOX燃料)です。
MOX燃料は、プルトニウムとウランの酸化物を混合した燃料です。高速増殖炉では、この燃料を用いて高速中性子による核分裂反応と燃料増殖の可能性を検証します。
もう一つの特徴が、冷却材に液体ナトリウムを使うことです。
もんじゅの主要な仕様
ナトリウム冷却高速増殖炉
MOX燃料
ナトリウムは約98℃で液体となり、約900℃まで沸騰しないという特徴があります。熱を伝えやすく、高速中性子の速度を大きく低下させないことも、高速増殖炉の冷却材として採用された理由です。
一方、水と接触すると激しく反応し、空気中の酸素や水分とも反応するため、漏えいや燃焼への対策が不可欠です。
もんじゅでは、原子炉で発生した熱を1次系ナトリウムから中間熱交換器を介して2次系ナトリウムへ伝え、さらに蒸気発生器で水を蒸気に変えてタービンを回す仕組みを採用していました。
原子炉の熱を直接水に伝える方式ではなく、ナトリウムを介して熱を運ぶ構造です。この複雑な設備構成が、運転管理や廃止措置における技術的な難しさにもつながっています。
もんじゅの発電実績はどれくらいだった?
もんじゅは実際に発電した実績を持つ原型炉ですが、商業用原子力発電所のように安定した電力供給を続けた施設ではありません。
JAEAが公表した技術資料では、主な運転実績は次のように整理されています。
- 初臨界:1994年4月
- 初送電:1995年8月29日
- 原子炉運転時間:約5,300時間
- 発電時間:約883時間
- 発電電力量:約1億kWh
定格電気出力は28万kWでしたが、1995年の事故が起きたのは40%出力試験の段階です。その後、2010年に性能試験を再開したものの、定格出力での本格運転には到達していません。
したがって、もんじゅの評価では「発電したこと」と「発電プラントとして長期的な信頼性を実証したこと」を区別する必要があります。
一方、設計や製造、運転・保守管理、ナトリウムの取扱い、安全評価などに関する技術的知見が蓄積されたことも、開発の成果としてJAEAは整理しています。
【2047年度までの廃炉工程】あと何年かかる?完了までの4段階
もんじゅの廃止措置は、2018年度から2047年度までの約30年間を想定した長期計画です。
JAEAと原子力規制委員会が公表している計画では、廃止措置を4段階に分けています。2026年11月現在は第2段階にあたり、原子炉本体の本格的な解体にはまだ入っていません。
4段階のスケジュール
第1段階:燃料体取出し期間
燃料体の取出し、2次系ナトリウムの抜取り、汚染状況の評価などを実施。
第2段階:解体準備期間
しゃへい体等の取出し、ナトリウム機器の解体準備、発電設備の解体撤去、ナトリウムの搬出など。
第3段階:廃止措置期間Ⅰ
ナトリウム機器の本格的な解体撤去や水・蒸気系発電設備の解体を継続。
第4段階:廃止措置期間Ⅱ
管理区域の解除、建物などの解体撤去、廃止措置の最終工程。
2047年度の完了予定は変更される可能性がある?
現行の計画では2047年度が廃止措置の完了目標です。ただし、これはすべての作業がすでに確定した日程どおりに終了することを保証するものではありません。
実際、しゃへい体等の取出しは燃料交換装置の不具合によって遅延しました。2025年5月の文部科学省資料では、2026年度の作業完了時期が遅れる見込みとされる一方、第2段階の終了時期である2031年度末には影響しないよう対応する方針が示されていました。
2026年8月の計画変更申請でも、ナトリウムの搬出方法や設備解体の準備、しゃへい体等の取出し方法が具体化されています。
重要なのは、2047年度という数字だけを見て進捗を判断しないことです。今後は次の3点が大きな判断材料になります。
1. 2026年度内にしゃへい体等の処理を完了できるか。
2. 2028~2031年度のナトリウム搬出を計画どおり実施できるか。
3. 2032年度以降のナトリウム機器の解体撤去と放射性廃棄物の処理を安全に進められるか。
【独自分析】もんじゅの廃炉で本当に難しいのは何か
もんじゅの廃止措置を単なる建物の解体工事と考えると、全体像を見誤ります。
最大の技術的な特徴は、冷却材として大量のナトリウムを使っていたことです。ナトリウムは化学的に反応しやすく、通常の設備撤去と同じ感覚で配管や機器を切断することはできません。
そのため、ナトリウムを回収する工程、残留ナトリウムを安定化する工程、機器を切断する工程を適切に組み合わせる必要があります。
さらに、原子炉運転中に放射化した設備や、放射性廃棄物の処理・処分も残されています。設備を取り外すことだけでなく、撤去後の物質をどこへ運び、どのように処理するかまで含めて廃止措置が成立します。
この意味で、英国とのナトリウム処理契約は単なる海外委託ではありません。もんじゅの廃炉工程を進めるための重要な前提条件の一つです。
また、2026年の計画変更で模擬燃料体を第3段階の原子炉容器解体に合わせて処理する方針にしたことは、作業を減らすこと自体が目的ではなく、放射線管理とナトリウムの取扱いを総合的に考慮した工程の合理化と捉えるべきです。
【高速増殖原型炉もんじゅ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:もんじゅは2026年現在も運転していますか?
A1:いいえ。2016年12月に政府が原子炉としての運転再開を行わず、廃止措置へ移行する方針を決定しました。2026年11月現在は解体準備期間にあり、発電運転は行っていません。
Q2:もんじゅのナトリウムは英国のどこで処理されますか?
A2:英国西カンブリア地域のワーキントン港に建設する処理施設が予定されています。2028~2031年度に搬出可能なナトリウムを輸送し、水酸化ナトリウムに処理する計画です。
Q3:もんじゅの廃炉はいつ完了しますか?
A3:JAEAの廃止措置計画では2047年度までの完了を予定しています。2026年現在は第2段階の解体準備期間であり、2032年度以降にナトリウム機器の本格的な解体撤去などを進める計画です。
まとめ:もんじゅの廃炉は2028年から2031年のナトリウム搬出が重要な節目
高速増殖原型炉もんじゅは、1995年のナトリウム漏えい事故、2010年の炉内中継装置落下、保守管理をめぐる問題などを経て、2016年に廃止措置への移行が決定しました。
2026年11月現在は、廃止措置第2段階の解体準備期間にあります。しゃへい体等の取出しや発電設備の解体撤去が進み、英国ワーキントン港でのナトリウム処理施設の準備も進展しています。
今後の大きな節目は、2028~2031年度のナトリウム搬出と、2032年度以降に予定されるナトリウム機器の本格的な解体です。そして、建物などの解体撤去を含む全工程の完了目標が2047年度となっています。
もんじゅの廃炉を正しく理解するためには、次の3つを区別して追うことが大切です。
- 運転終了: 2016年に政府が廃止措置への移行を決定。
- 廃止措置の進捗: 2026年は第2段階で、設備の解体準備やしゃへい体等の処理を実施。
- 廃炉完了: 2047年度を目標に、原子炉設備から建物まで段階的に撤去する計画。
もんじゅの歴史は、高速増殖炉という技術への期待と、実際の運転・保守管理で直面した課題の両方を示しています。これからの廃止措置は、過去の技術的な知見を安全な解体技術へと引き継げるかどうかを問う長期的なプロジェクトです。
2047年度という最終目標だけでなく、しゃへい体等の取出し、英国でのナトリウム処理、原子炉設備の解体という一つひとつの節目を追うことが、今後の進捗を判断するうえで重要になります。 (出典: 高速 増殖 原型 炉 もんじゅ(Yahoo!ニュース))