今回の予選会で最も興味深いのは、リズムダンスの順位と最終順位が完全には一致しなかった点だ。
リズムダンスの得点を詳しく比較
2026年10月31日のリズムダンスの上位5組を、技術点と演技構成点に分けて見ると、次のようになる。
| カップル | 技術点 | 演技構成点 | 合計 |
|---|---|---|---|
| うたまさ | 40.72 | 30.71 | 71.43 |
| りかしん | 37.40 | 28.39 | 65.79 |
| いくこう | 37.52 | 28.16 | 65.68 |
| しょまりん | 31.76 | 26.92 | 58.68 |
| かほゆう | 33.94 | 23.49 | 57.43 |
最初に目を引くのは、うたまさと2位のりかしんとの間にある5.64点差だ。
うたまさは技術点40.72点、演技構成点30.71点の両方でトップ。技術的な要素の実施だけでなく、音楽表現やプログラム全体の完成度でも高い評価を受けている。
一方、2位のりかしんと3位のいくこうとの差はわずか0.11点。
さらに興味深いのは、いくこうの技術点37.52点が、りかしんの37.40点を上回っていることだ。りかしんは演技構成点で28.39点を獲得し、いくこうの28.16点を上回った。
つまり、両者の順位は技術点だけでは決まっていない。
71.43点を獲得したうたまさの強み
吉田・森田組は技術点40.72点に加え、演技構成点30.71点を獲得した。
両者の差は、単純に難しい技を成功させたかどうかだけでは説明できない。
アイスダンスでは、エッジの使い方、ターンの精度、2人の動きの一致、音楽との調和などが重要になる。
日本スケート連盟や国際スケート連盟の競技評価体系に照らしても、技術要素の質とプログラム全体の表現力を分けて見る必要がある。
65.79点と65.68点の僅差が示した実力
りかしんといくこうの比較は、2026年の国内競争を象徴している。
りかしんは紀平のシングル時代の実績と、西山のアイスダンス経験を融合させている。一方、いくこうは長身の2人によるダイナミックな動きが特徴だ。
得点差は0.11点しかなく、演技構成や技術要素の完成度によって順位が変わる水準にある。
この2組が今後どこまで得点を伸ばすかは、全日本選手権以降の大きな見どころになる。
フリーダンスでは順位が逆転した
11月1日のフリーダンスでは、さらに興味深い結果になった。
| カップル | FD得点 | 総合得点 | 最終順位 |
|---|---|---|---|
| うたまさ | 104.39 | 175.82 | 1位 |
| いくこう | 99.85 | 165.53 | 2位 |
| りかしん | 99.53 | 165.32 | 3位 |
| しょまりん | 87.02 | 145.70 | 4位 |
| かほゆう | 83.90 | 141.33 | 5位 |
リズムダンスではりかしんが2位、いくこうが3位だった。しかし、フリーダンスではいくこうが99.85点、りかしんが99.53点となり、順位が逆転した。
フリーダンスの差は0.32点。リズムダンスではりかしんが0.11点上回っていたため、総合ではいくこうが0.21点上回る結果になった。
いくこうはフリーダンスで2点の減点を受けながらも2位を確保している。技術点は57.85点で、りかしんの55.87点を上回った。
この結果が示すのは、RDの順位だけでカップルの総合的な実力を判断するのは早いということだ。
RDとFDの両方で安定して得点できることが、最終順位を左右する。
【うたまさ・りかしん・いくこう・しょまりん】結成背景と注目ポイント
日本のアイスダンスが面白くなっている理由は、各カップルの結成背景と競技経験が大きく異なることにある。
1.うたまさ:世界を知る2人が築いた安定感
吉田唄菜・森田真沙也
2023年6月に結成したうたまさは、2人ともジュニア時代からアイスダンスに取り組んできた選手だ。
結成のきっかけは森田から吉田への連絡だった。2023年の取材では、4月のトライアウトを経て5月から本格的な練習を始めた経緯が紹介されている。
吉田は以前、西山真瑚と組んで2020年世界ジュニア選手権などに出場。森田も別のパートナーと世界ジュニアを経験していた。
つまり、2人はアイスダンスの基礎を新しく学ぶ段階から始めたわけではない。それぞれの競技経験を持ち寄り、相性を確かめながら新しいカップルを作り上げた。
現在はキャシー・リードらの指導を受け、京都を拠点に競技力を高めている。
2026年の五輪団体銀メダル、世界選手権出場、全日本選手権連覇という実績は、日本の次世代アイスダンスを牽引する存在であることを示している。
2.りかしん:紀平梨花の新たなスケート人生
紀平梨花・西山真瑚
紀平梨花は、女子シングルで2018年グランプリファイナル優勝、全日本選手権2連覇などを成し遂げた実力者だ。
2025年9月29日、西山真瑚とのアイスダンスカップル結成を発表した。
西山は以前、田中梓沙とのカップルで競技しており、2025年2月の冬季アジア大会では銅メダルを獲得している。その後、同年7月に田中とのカップルを解消し、新たなパートナーを探していた。
紀平にとってはシングルからの転向、西山にとっては新しいパートナーとの挑戦という、異なる背景が重なって誕生したチームだ。
練習拠点はカナダ・モントリオール。ロマン・アグノエル、マリー=フランス・デュブレイユ、パトリス・ローゾンらの指導を受けている。
2026年8月にはカナダの国内競技会に出場し、リズムダンス67.26点で7組中3位。10月の東日本選手権では65.79点を記録した。
紀平のシングル時代のジャンプや身体能力を知るファンにとって、アイスダンスでどのような表現を見せるのかは大きな関心事だ。
ただし、アイスダンスで評価されるのはシングルのジャンプ能力だけではない。西山とのユニゾン、エッジワーク、音楽表現をどこまで高められるかが鍵になる。
3.いくこう:櫛田育良と島田高志郎の大型カップル
櫛田育良・島田高志郎
2025年5月9日に結成が発表されたカップル。
櫛田は女子シングルとアイスダンスの両立に取り組み、島田はアイスダンスに専念する方針でスタートした。
櫛田はジュニア時代から国内外で実績を残し、島田も男子シングルで全日本選手権2位やグランプリシリーズでの表彰台経験を持つ。
2人ともシングル競技で培った技術を持っており、結成当初から大きな期待を集めた。
そして2026年4月、櫛田は新シーズンからアイスダンスに専念することを明らかにした。
シングルとの二刀流から本格的なアイスダンスへの移行は、競技力を伸ばすうえで重要な転換点になる。
東日本選手権ではリズムダンス3位から総合2位に浮上。2026年の国内勢力図を変える有力な存在になっている。
4.しょまりん:宇野昌磨と本田真凜が2030年五輪を目指す
本田真凜・宇野昌磨
2026年のアイスダンス界で最も大きな話題の一つとなったのが、しょまりんの誕生だ。
2026年5月22日、宇野昌磨と本田真凜はアイスダンスチームの結成と競技復帰を発表した。
2人が挑戦を決意したのは2024年10月ごろ。宇野から本田にアイスダンスでオリンピックを目指す提案をしたことが、結成のきっかけだった。
目標として掲げたのは、2030年冬季オリンピックへの出場である。
宇野は平昌・北京五輪で2大会連続メダルを獲得した男子シングルの元世界王者。本田は2016年世界ジュニア選手権優勝者で、華やかな表現力とスケーティングが持ち味だ。
2人の強みは、シングル競技で培った技術、表現力、競技経験にある。
ただし、シングルでの実績がそのままアイスダンスの得点に直結するわけではない。2人の滑走の一致、パートナーとの距離感、リフトやツイズルなどの技術要素を新たに磨く必要がある。
2026年10月31日、東日本選手権で公式戦デビュー。リズムダンス58.68点、フリーダンス87.02点、総合145.70点で4位となった。
デビュー戦の会場は約1500席が完売。演技後にはスタンディングオベーションも起こり、競技としての結果だけでなく、アイスダンスへの関心を広げる存在になった。
5.かほゆう:ジュニアから成長してきた実力派
山下珂歩・永田裕人
山下珂歩と永田裕人のカップルは、2019年に結成された。
2025年には全日本ジュニア選手権で優勝。国内ノービス選手権でも優勝経験があり、ジュニア時代から継続して競技経験を積んできた。
2026-2027シーズンにはシニアデビューを予定しており、2026年の予選会は新しいカテゴリーでの実力を測る機会になった。
東日本選手権ではリズムダンス57.43点、フリーダンス83.90点、総合141.33点で5位。
上位4組とは得点差があるものの、ジュニアからシニアへと競技の舞台を広げている点に注目したい。
【アイスダンスとペアの違い】採点・技・演技構成を解説
フィギュアスケートを普段から見ている人でも、アイスダンスとペアスケーティングの違いを正確に説明できる人は意外と少ない。
どちらも男女2人で演技するため、混同されやすい。しかし、競技の目的や評価される技術は大きく異なる。
アイスダンス
音楽表現・ステップ・ユニゾン
ペアスケーティング
ジャンプ・スロージャンプ・リフト
アイスダンスの特徴
アイスダンスは、社交ダンスの要素を取り入れたフィギュアスケート競技だ。
男女2人が音楽に合わせて滑り、ステップやターン、リフト、ツイズルなどを組み合わせる。
特に重要なのは、2人の動きがどれだけ調和しているかという点。
アイスダンスにはペアのようなスロージャンプや、通常のジャンプ要素はない。派手なジャンプを競うのではなく、氷上での滑走技術や音楽の解釈、パートナーとの一体感を競う。
ペアスケーティングの特徴
ペアは、男女がそれぞれのジャンプやスピンを行うだけでなく、スロージャンプ、ツイストリフト、ペアスピンなどの要素を実施する。
男性が女性を高く投げ上げるスロージャンプなど、ダイナミックな技術が見どころになる。
RDとFDは何が違う?
アイスダンスの競技は2つのプログラムで構成される。
リズムダンス(RD)
指定されたシーズンの音楽やリズムの条件に沿って演技するプログラム。
- 指定されたリズムやテーマへの対応
- パターンダンスやステップの正確性
- ツイズルやリフトなどの技術要素
- 音楽とのタイミングやユニゾン
フリーダンス(FD)
カップルが選んだ音楽や振付をもとに、自由度の高い演技を披露するプログラム。
- プログラム全体の構成
- 音楽と振付の一体感
- リフトやステップなどの難度
- 演技の表現力と完成度
RDで良い順位を獲得しても、FDでミスが出れば総合順位は変わる。今回のりかしんといくこうの結果が、その分かりやすい例だ。
得点はどう決まる?
ISUの採点システムでは、基本的に次の要素を組み合わせて得点を算出する。
- 技術点(TES): 実施した技術要素の基礎点と出来栄え点を評価。
- 演技構成点(PCS): 構成、プレゼンテーション、スケーティングスキルを評価。
- 減点: 転倒や規則違反など、該当するペナルティーを反映。
この仕組みを理解すると、今回のうたまさの71.43点や、りかしんといくこうの0.11点差を、より深く読み解ける。
【日本アイスダンス界の歴代代表と勢力図】五輪への道をつないだ選手たち
2026年の勢力図を理解するには、これまで日本のアイスダンスを支えてきた選手たちの実績も知っておきたい。
日本の歴代主要カップルと国際大会の実績
キャシー・リード・クリス・リード
リード姉弟は、日本のアイスダンスを国際舞台に定着させた代表的な存在だ。
2010年バンクーバー、2014年ソチの2大会に出場。弟のクリスは2015年から村元哉中と新たなカップルを組み、2018年平昌五輪では15位に入った。
村元・クリス組は2018年四大陸選手権で日本アイスダンス史上初の銅メダルを獲得している。
村元哉中・髙橋大輔
2020年に結成された村元・髙橋組は、日本のアイスダンスに新しい注目を集めたカップルだ。
髙橋は男子シングルで五輪メダルを獲得した実績を持ち、アイスダンスへの転向は大きな話題になった。
2022年四大陸選手権では銀メダル、2023年世界選手権では11位を記録。国内選手権でも優勝し、国際舞台で日本の存在感を高めた。
小松原美里・小松原尊
2016年に結成された小松原組は、2018年から2021年まで全日本選手権を4連覇した。
2022年北京五輪では日本代表として団体戦銀メダルを獲得。個人種目でも日本代表として出場した。
小松原美里は2024年に競技から引退し、小松原尊も2025年1月に引退を発表した。
2026年の勢力図をどう見るべきか
これまでの日本アイスダンス界は、国際経験を持つ限られたカップルが中心となって競技を支えてきた。
しかし2026年は状況が異なる。
- うたまさ:五輪団体銀メダルと全日本連覇の実績。
- りかしん:シングルのトップ選手と国際経験豊富なダンサーの融合。
- いくこう:シングルの高い競技能力を生かした新世代。
- しょまりん:知名度と競技経験を持つ選手による新しい挑戦。
- かほゆう:ジュニア時代からの継続的な育成を背景に持つ組。
この多様化は、日本のアイスダンスにとって大きな意味を持つ。
従来は男性選手の確保、指導者の不足、練習環境や資金面などが競技普及の課題として指摘されてきた。選手が増え、異なるバックグラウンドを持つカップルが競い合うことは、競技人口や観客層の広がりにもつながる可能性がある。
ただし、注目度と世界ランキングは別の問題だ。
日本の勢力図を正確に見るなら、国内大会の順位だけでなく、ISU公認大会の得点、世界選手権の順位、国際大会への出場経験を併せて判断する必要がある。
【アイスダンスペア日本に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:2026年の日本アイスダンス代表は誰ですか?
A1:2026年ミラノ・コルティナ五輪の団体戦に日本代表として出場したのは吉田唄菜・森田真沙也組です。団体銀メダル獲得に貢献しました。国内では紀平梨花・西山真瑚組、櫛田育良・島田高志郎組なども有力な競争相手です。
Q2:うたまさ・りかしん・いくこうの得点は何点ですか?
A2:2026年10月31日の東日本選手権リズムダンスでは、うたまさ71.43点、りかしん65.79点、いくこう65.68点でした。11月1日のフリーダンス終了後の総合順位は、うたまさ1位、いくこう2位、りかしん3位です。
Q3:しょまりんはアイスダンスで何位でしたか?
A3:2026年10月31日から11月1日に開催された東日本選手権で公式戦デビューし、総合145.70点で4位でした。RD58.68点、FD87.02点です。
Q4:紀平梨花と西山真瑚はいつ結成しましたか?
A4:2025年9月29日にカップル結成を発表しました。紀平は女子シングルから転向し、西山は以前のパートナーとの活動を終えた後、新たなチームとして競技に挑戦しています。
Q5:アイスダンスとペアスケートの違いは何ですか?
A5:アイスダンスはステップ、ターン、リフト、音楽表現や2人の一体感を重視します。ペアスケーティングはスロージャンプやツイストリフトなど、ダイナミックな技術要素が特徴です。
Q6:日本のアイスダンスで歴代の有名なカップルは誰ですか?
A6:キャシー・リード・クリス・リード、村元哉中・クリス・リード、村元哉中・髙橋大輔、小松原美里・小松原尊などが代表的です。現在は吉田唄菜・森田真沙也組が国際舞台で実績を重ねています。
まとめ:日本のアイスダンスは2030年五輪へ向けて新時代に突入
2026年の日本アイスダンス界は、うたまさを中心としながら、りかしん、いくこう、しょまりん、かほゆうなど、個性の異なるカップルが競い合う新しい局面に入った。
10月31日のリズムダンスでは、うたまさが71.43点で首位。りかしん65.79点、いくこう65.68点と続き、わずか0.11点差の争いも生まれた。翌日のフリーダンスではいくこうがりかしんを逆転して総合2位となり、プログラム全体の完成度が順位を左右することを示した。
今後の注目ポイントは3つある。
- うたまさ:五輪団体銀メダリストとして、世界選手権での順位をさらに伸ばせるか。
- りかしん・いくこう:結成からの成長を得点に結び付け、国内トップとの差を縮められるか。
- しょまりん・かほゆう:それぞれ異なる経験を生かし、2030年五輪を見据えた競技力を確立できるか。
次の大きな舞台となる2026年全日本選手権は、12月24日から27日まで大阪の東和薬品RACTABドームで開催予定だ。
日本のアイスダンスを追いかける際は、知名度や話題性だけでなく、RDとFDの得点、技術点と演技構成点、国際大会の実績を組み合わせて見ると、各カップルの本当の成長が分かりやすい。
2030年の冬季五輪に向け、日本のアイスダンスがどこまで世界との差を縮められるのか。2026年は、その競争が本格化した重要なシーズンとして記憶されそうだ。 (出典: アイスダンス ペア 日本(Yahoo!ニュース))